2005年08月31日

映画『愛についてのキンゼイ・レポート』

実在したアメリカの性科学者・昆虫学者であるアルフレッド・キンゼイ(Alfred C Kinsey 1884-1957)の生涯を描いた映画です。余談ですが、製作総指揮にフランシス・フォード・コッポラが名を連ねていますね。

この映画で、はじめて私はキンゼイの名を知りました。人間の性行動を面接による調査をして統計的に解析を行なった人です。映画では主にキンゼイの性科学研究時代の様子が描かれています。タマバチの研究をしていたキンゼイがなにゆえ性行動の実態を深く探ろうと思ったのか、また、どのようにして調査を行なったかということがわかりました。

今よりもずっと保守的だったと思われる時代に、性行動の実態はこのようであるということを統計的にまとめあげたキンゼイレポートは相当センセーショナルなものだったようです。根本的には、みんな他人のセックス行動に興味があったということでしょう。嫌悪感を抱く人もそうでない人も。

キンゼイ(リーアム・ニーソン)が研究者として活動する場面だけでなく、キンゼイの妻や家族の様子も描かれている。なんだかとっても性にオープンな家族でちょっと戸惑いを感じた私でした。そんな家族の中、唯一そのことを嫌がっていた息子の気持ちはわかりますね。

多くの人に調査をしたキンゼイは父にも性的な調査を行います。これも驚きましたね。大抵は、父に向かってそんなことなかなか聞けないですよ。第一、聞く必要ないですし。

私自身ちょっとこういうテーマは大事に思いつつもなんだか引いてしまう気分で見ていました。保健体育での授業で性について教えられていた時の気分に近いものはありましたね。演技的にはキンゼイの妻が一番印象的です。いろいろと考えさせられます。

お気に入り度:★★★★★★☆☆☆☆(6/10)

『愛についてのキンゼイ・レポート』公式サイト
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原題:KINSEY
監督:ビル・コンドン
脚本:ビル・コンドン
音楽:カーター・バーウェル
出演:リーアム・ニーソン、ローラ・リニー、クリス・オドネル、ピーター・サースガー、ティモシー・ハットン
製作年度:2004年
製作国:アメリカ/ドイツ
上映時間:118分


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2005年08月30日

映画『恋する神父』

日本での題名は『恋する神父』ですが、実際は、「恋する神学生」といったところでしょうか。この映画ではクォン・サンウが神学生のギュシク役に挑みます。ちなみに原題の신부수업(シンブスオブ)が意味するところは神父(新婦)授業だとか。新婦と神父が同音意義なところがポイントのようです。そのため、例の映画ポスターは神学生のクォン・サンウとキュートな花嫁姿のハ・ジウォンが写っているわけです。
・参考:http://abbiemay.exblog.jp/3044136/
welcome to abbie may's cafe

ギュシクは1カ月後に聖職授任式を控えていた。そんな頃にアメリカ帰りの若い娘ボンヒ(ハ・ジウォン)と出会い、気付いたらお互い恋に落ちていたというような話です。しかし神父となる者は生涯独身を貫かなければならず、女性と恋愛などということはとても考えられません。そんな彼は罪の意識を背負い思い悩む。

特に驚くようなストーリーではないけれど、実際にこの映画を神学生が観たらどうなんだろう。その世界の人たちから見ればこの話はとても驚くような内容なのかもしれないなあって少しばかり思った。

これまで映画では不良じみた役柄の多い気がするクォン・サンウですが、今回の神学生役もなかなか似合っていたと思います。信仰に生きる青年の純粋さがよく出ていました。

バンヒ役のハ・ジウォン。ちょっとお転婆なキャラですが、だんだんとかわいさがアップしていくんですね。彼女のキュートさにはっとさせられました。まるで自分自身が神学生ギュシクになった気分。でも、しゃべりというか声の調子なんかはキム・ハヌルっぽいなあ……。

ギュシクの持っているロケットペンダントが展開上ちょっと重要なアイテムになっています。みなさんもああいうふうにロケットペンダントを使ってみてはいかがでしょうか。もうひとつのアイテムというか、まあ、これはセリフなんですが、「デオ・グラシアス」という語も重要でしたね。ところで、ボンヒの付き合っている男性や彼のもうひとりの彼女の描き方がちょっと浅いかなと思いました。

神学生の生活風景や教会の様子はこだわりを持って製作されているようです。恥ずかしながら最近牧師と神父の違いがわかった私にとって目新しいものでした。

この映画の結末に関していろいろな意見があると思うけれど、僕はなんだか受け入れがたい気持ちと、それでいいんだよという気持ち、両方混ざって何だかすっきりしない気分になってしまいました。一時の気持ちが長年の人生設計をスポイルしてしまうかもしれないという場面は誰にでもあると思います。僕の感じたこういう不快感は妙に現実的でした。

お気に入り度:★★★★★★☆☆☆☆(6/10)

『恋する神父』公式サイト
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恋する神父@映画生活
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原題:신부수업
監督:ホ・インム
脚本:ユン・ウンギョン、ホ・インム
音楽:スルヴィアン
出演:クォン・サンウ、ハ・ジウォン、キム・イングォン、キム・インムン、キム・ソンファ
製作年度:2004年
製作国:韓国
上映時間:108分


映画『恋する神父』の関連商品の紹介

「恋する神父」オリジナル・サウンドトラック
サントラ
♪この音楽お掃除の時にどう?
なんとこのサントラには映画名場面集クリップ映像DVDが付いているそうです。
「恋する神父」オリジナル・サウンドトラック

韓国盤のオリジナルサウンドトラックもあります。
韓国盤にはDVDは付いていません。


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2005年08月24日

映画『マルチュク青春通り』

TVドラマ『天国の階段』有名な人気俳優クォン・サンウの主演映画。そういうわけなのか観客は9割方が女性でした。映画そのものは450万人もの観客を本国では動員したというだけあってなかなか本格的な青春活劇です。

当時を生きた監督の反省的な姿勢がこの映画には反映しているという。ナイーブな少年だった監督は、高校時代怖いもの知らずでマッチョな男になった。しかしそれが本当の男ということなのかという疑問が映画製作の動機の一つになったようだ。また当時軍事政権下にあった教育体制に対する批判も込められている。


この物語の主役はクォン・サンウ演じる高校二年生のヒョンス。1978年、母が地価高騰を見込み新しい家に引っ越しをしてから、ヒョンスはマルチュク通りの近くにある男子校に転校することになる。そこはガラの悪い生徒ばかりの実に荒れた学校。教師は威圧的で、生徒への苛烈な体罰は日常茶飯事だった。

ブルース・リーに憧れる内気なヒョンスはそんな過酷な環境の中でも、友達を見つけたり、恋をしたり、ケンカをしたりと彼なりの青春を送るのだ。


僕はこの映画を観て、この高校って凄くコワイなあって思った。みんなマジで殴ったり蹴ったりで凄いケンカをする。また、軍事政権下の当時、教師の方は強権的で事あるごとにいきなり暴力を生徒に加える。「韓国の教育、クソくらえ」に相応しい教師ばかりだ。こんな高校では亀田兄弟くらいウデに覚えがないと生きていけそうにない。

ストーリーの線としては、学校内の生徒の権力抗争とヒョンスの恋愛がメインかな。ヒョンスは友達がまだいないころバスケットボールを上手くキメてウシク(イ・ジョンジン)と仲良くなる。彼は校内での一勢力のボスであり、風紀委員のジョンフンと勢力を争っていた。また、ヒョンスはバスの中で美少女に一目惚れをする。その相手は高校三年生のウンジュ(ハン・ガイン)だ。しかしウンジュはウシクと付き合い始めてしまう。

決して戻ることのできない懐かしくて思い出すと恥ずかしいような時代がある人ならなんか共感するものはあるんじゃないのかなあ。要領よく青春時代をくぐり抜けたような人はそうでもないかもしれない。僕はあんまり器用に生きたほうじゃないから主人公のヒョンスの気持ちはなんかわかるなあ。あんなに荒れた高校でもなかったしあそこまで暴力的な先生はいなかったけど。この時代はマッチョでなくても強がっていないと生きていけそうにない。

ヒョンスがウンジュを連れて逃げるところがいい。ああいうのに青春のエッセンスが凝縮されていると言ってもいいかな。ケンカはかなり派手にやってくれるので、かなりの見どころでもあるけどそういうのがイヤな人には見たくない場面かもしれない。また、当時の韓国の若者文化を垣間見ることができるのも面白い。エンディングは時代の流れを感じさせる。過ぎ去った時間を懐かしむような余韻に浸りながら劇場を後にした。

お気に入り度:★★★★★★★☆☆☆(7/10)

『マルチュク青春通り』公式サイト
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原題:말죽거리 잔혹사
監督:ユ・ハ
脚本:ユ・ハ
音楽:キム・ジュンソク
出演:クォン・サンウ、イ・ジョンジン、ハン・ガイン、イ・ジョンヒョク、パク・ヒョジュン
製作年度:2004年
製作国:韓国
上映時間:118分


サウンドトラックあります

マルチュク青春通り オリジナル・サウンドトラック
心を癒してくれるような懐かしいギターサウンド、あのころの行き場のない気持ちを表現したようなラップ、そしてクォン・サンウのソロも入っています。
マルチュク青春通り オリジナル・サウンドトラック


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2005年08月14日

映画『リンダ リンダ リンダ』

私の高校時代の文化祭は屋外展示物の製作ばかりでちょっとつまらなかったけれどそれはそれで今は思い出なのかもしれない。映画制作クラスが楽しそうだった。『リンダ リンダ リンダ』は多くの人の高校時代をさまざまな形でしんみりと思い起こさせる映画かな。どことなくダラダラした展開を受け入れられるかそうでないかがこの映画の判断の分かれ目かもしれない。

ちょっとサプライジングなことにこの映画には韓国女優のペ・ドゥナが主演女優で登場している。山下監督の熱いラブコールによりペ・ドゥナの出演が実現したそうだ。さらに驚くべきことはペ・ドゥナの年齢。現在25歳である彼女が映画で女子高校生役を演じている。実際、彼女は他の女優たちとの年齢差はとても気にしていたそうな。
ペ・ドゥナはある映画で結構過激なシーンをやっていたので、鑑賞中そういうシーンが頭にちらつくことが少しあり、なんとなく気まずく思ってしまった。この映画ではそんなシーンとは無縁なイノセントな女子高校生を演じる。
ペ・ドゥナの他、ローレライでパウラ役を演じたキリッとしたお姉さんの香椎由宇、『バトル・ロワイヤル』では藤原竜也と一緒に逃げる前田亜季、実際に「Base Ball Bear」というバンドで音楽活動をしている関根史織の4人でバンドのメンバーを演じる。


高校文化祭の前日にバンドのメンバーのギタリスト萌が指を骨折してしまい、恵(香椎由宇)、響子(前田亜季)、望(関根史織)の3人はどうするべきか困ってしまう。どうしても文化祭でバンド演奏をしたい恵はブルーハーツのギターならなんとか演奏できるということで、あとはボーカルをやるメンバーを急遽探すこととなる。韓国人留学生のソン(ペ・ドゥナ)はボーカルをしないかと3人から突然の誘いを受けるのだ。


この映画は肩の力をほどよく抜いたような映画で、隠しカメラで日常を切り取ったような作品である。映画の中の1コマ1コマに対して「あるある。そういうの」と思わせてくれる現実感に富む映画だ。文化祭会場やメンバーの女子高校生の家なども実際にありそうな雰囲気満点で製作側のこだわりを感じる。

急遽加わったソンと3人のメンバーたちでどうにかこうにか本番の日までにブルーハーツの数曲をコピーして演奏しなければならない。何せたった四日間しかない間に日本語もおぼつかないソンをボーカルにしてバンドを成功させようという四日間の奇蹟の物語。脇を固める出演者も面白い。萌役の湯川潮音や屋上の女子生徒の山崎優子ははただモノではないと思っていたら、やはり音楽活動をしている人たちだった。

韓国から出演したペ・ドゥナには当然韓国人らしいキャラクターが割り当てられている。一人でカラオケに行って朝鮮語で「Can you celebrate?」を歌ったり、思った事ははっきりと言ったりする。ある男子高校生が朝鮮語でソンに会話をすると、ソンはそれに日本語で返事をする。そんな場面をみると、あるなあこういうのって感じた。

急遽組んだバンドの選曲が幸い私と同時代なので恐ろしいほどスッキリとこの映画は心の中に入り込んできた。もし選曲が、今が旬のバンドの曲だったらそうではなかったかもしれない。そういう意味でこの映画は今30前後の人にとって一番オイシイ映画のような気がする。満足しました。僕にはどこかノスタルジックな映画でした。現在高校生の人たちにとってはそうじゃないだろうけど。

お気に入り度:★★★★★★★☆☆☆(7/10)

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監督:山下敦弘
脚本:向井康介、宮下和雅子、山下敦弘
音楽:ジェームズ・イハ
出演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織、三村恭代
製作年度:2005年
製作国:日本
上映時間:114分


映画「リンダ リンダ リンダ」オリジナル・サウンドトラック
映画「リンダ リンダ リンダ」オリジナル・サウンドトラック
we are PARANMAUM
タイド&エコー
うたのかたち
逆上がりの国
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2005年08月11日

映画『受取人不明』

『受取人不明』は、キム・ギドク監督の作品。最近のキム・ギドク監督の作品では『サマリア』が有名。1970年代、米軍が駐留する村に住む混血児とその母、若者たちを中心に村の人たちの人間模様を鮮烈に描く。


少女ウノク(パン・ミンジョン)は、幼少時、兄に右眼を傷つけられた容貌にコンプレックスを持っている。愛犬だけが唯一の心を開く相手だ。
混血児チャングク(ヤン・ドングン)は、村人とトラブルを起こす母親を足蹴にして、黒人米兵と韓国人との間に生まれた自分自身のアイデンティティに苦悩する。犬肉解体卸業を営む男(チョ・ジェヒョン)の元で気が進まない仕事を手伝う。
ジフム(キム・ヨンミン)は経済的理由で学校に行けず肖像画専門店で働くが、学校に通う悪ガキ二人組からはしょっちゅうイジメられている。ウノクに想いを寄せるが右眼が傷ついているウノクは心を開こうとしない。

ウノクの母(イ・イノク)は、朝鮮戦争で亡くなった夫の年金を頼りに生活している。
チャングクの母(パン・ウンジン)は村の外れにあるバスに住み村人たちと距離を置き、受取人不明で戻ってきた手紙を黒人米兵宛てに再び差し出す。出会った村人とは英語で会話をする。
ジフムの父(ミョン・ゲナム)は朝鮮戦争で右足を負傷し月30000ウォンの年金を頼りにして生活している。
犬肉解体卸業を営む男はチャングクの母を愛している。彼女に暴力を振るうチャングクを許せず仕返しをするものの彼女にそのことを逆に責められる。
異国での軍隊生活に堪えられない米軍兵のジェームズ(ミッチー・マローム)はウノクに近づき眼の治療を提案する。


キム・ギドク作品を観る時はいつも心の痛みを伴う。そして何かを見せ付けられハッとすることが多い。もちろんこの作品もそうだ。解決しがたい問題を抱えて傷ついた村人たちの暮らしぶりが描かれるこの映画には、見事な場面の数々が精密機械のようにびっしりと詰め込まれている。

若者が中心となる展開していくが、最終的に明るい展望が開けるという映画では決してない。どちらかというとかなり悲劇的だ。とりわけ犬肉業者やチャングクの母とチャングクに訪れる運命の悲惨さといったら見るに堪えない。朝鮮戦争や米軍の存在が背景となって悲劇が生まれたかのように描かれている。

多くの人が朝鮮戦争で直接的あるいは間接的に傷付いた人たちだ。しかしジフムをいじめる悪ガキ二人組はやや異質だ。彼らは朝鮮戦争の影響で駐留している米軍駐屯地の米兵からポルノグラフを買ったりジフムに英語で話しかけてからかったりするアメリカかぶれの韓国人として描かれている。彼らの存在は韓国内に駐留する米軍を利用するものの象徴だろう。

映画には犬が登場する。ウノクやジフンは犬を可愛がる。一方、犬肉で商売をする男は犬を撲る。実際に撲る場面は映像にはないものの、音だけでまるで本当に犬を撲っているかのように思わせられる。韓国の犬肉産業の一面が伺える。

韓国内に米軍はいらないという政治的メッセージを含んでいるかのような作品である。とりわけチャングクがアメリカかぶれの二人組に対して「お前たちみたいなアメリカかぶれが韓国をダメにする」と言うところに監督の意識が表れているように感じた。朝鮮戦争がなければ確かに彼らには違う運命があっただろう。しかし、村人は無関係といわんばかりに米軍機は空を飛ぶのだ。

お気に入り度:★★★★★★★★☆☆(8/10)

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原題:수취인불명
監督:キム・ギドク
脚本:キム・ギドク
音楽:パク・ホジュン
出演:ヤン・ドングン、パン・ミンジョン、キム・ヨンミン、チョ・ジェヒョン、パン・ウンジン
製作年度:2001年
製作国:韓国
上映時間:119分


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2005年08月06日

映画『ヒトラー ~最期の12日間~』

広島の原爆投下から60周年の今日、『ヒトラー ~最期の12日間~』を見た。広島では今日が上映初日で、100席ほどのサロンシネマは観客で一杯。この映画に対する関心の高さに比べて、上映映画館が少なすぎるのではないだろうか。

この映画の監督は『es』のオリヴァー・ヒルシューゲル。『es』では人々の心理面を怖いくらいに描いていた。監督は妻から『ヒトラー ~最期の12日間~』の監督をすることは反対だと言われていたようだ。ドイツ人にとってこのテーマを扱うことの困難さがうかがえるエピソードだ。

ちょっと特筆すべきことは、ベルリンの市街地場面の撮影はロシアのサンクトペテルブルクで行なわれたことである。1941年ドイツ軍の封鎖により100万人とも言われる死者を出した街。当時はレニングラードと呼ばれていたその街で撮影が行なわれた理由は、皮肉にも当時のドイツ人が多く関わった建築物が多い街並みだったからだそうだ。エキストラには多数のロシア人が参加している。

映画はヒトラーの女性秘書トラウドゥル・ユンゲ(アレクサンドラ・マリア・ララ)の視線から、ヒトラーが最期を迎える12日間がメインに描かれる。実はこのようにヒトラーに直接スポットを当てた作品は初めてという。しかも戦争当事国のドイツ自らこのような作品に挑んだ。

ブルーノ・ガンツが演じるヒトラーには驚かされた。ヒトラーの本物を見たことなんてないし本物の写真とは頬のあたりが特に違うけれど、なぜかこれはそっくりだと思ってしまう。威圧的な抑揚ある喋り方、独特なジェスチャーなどあまりにもイメージ通りで、目の前に本物のヒトラーがいると思わせられたことは不思議な体験である。

この映画を見て僕自身の世界史の知識の薄さを思い知らされたことも収穫の一つだ。ヒトラーの側近について何も知らなかった。映画では何人かのヒトラーの側近たちの行動や心理も描いている。最後まで徹底抗戦を唱える者や戦後を見越して降伏を画策する者が登場する。終戦間近の混乱が垣間見ることができる。

ドイツの敗戦は世界の終わりと信じていた人たちの行動は痛ましいものだった。特にゲッペルス夫人(コリンナ・ハルフォーフ)のそれは言葉にならないくらい衝撃的。夫人は6人の子どもたちを睡眠薬で眠らせたあと毒殺する。子どもの人権なんて当時の世界にはない。その後ゲッペルス夫妻は拳銃で死を遂げる。

ヒトラーの愛人エヴァ・ブラウン*1(ユリアーネ・ケーラー)についても描かれている。エヴァの妹の夫がヒトラーの命令により殺されたけれども、その後エヴァはヒトラーと結婚している。18年間の愛人生活に終わりを告げようやく結婚したエヴァの満足そうな表情が印象的だった。史実では「可哀そうなアドルフ、彼は世界中に裏切られたけれど私だけはそばにいてあげたい」と語ったという。*2

地下要塞内部の様子だけでなくベルリン市街での市民の様子も描かれている。年端のいかない少年や少女達が徹底抗戦の構えをみせる。戦争の反対を唱えるものは戦争賛成者から制裁を受ける。日本の戦争中も大なり小なりこれと似たような状況だったのだと思わせられる。

この映画で描かれているヒトラーはホロコーストでユダヤ人の大量虐殺を実行した恐ろしい人物ではなく、最後の余力で無謀な作戦を立て追い詰められていく悲哀に満ちた男という感じだ。次々に発覚する部下の裏切り。組織は崩壊寸前。最後は自分の遺体の処理の仕方まで部下に伝える。

最後の場面でユンゲは戦争で生き残った少年と自転車に一緒に乗る。ちょっととって付けたようなシーンだったけれど、ちょっと疲れた心の僕には一時の安らぎでもあった。希望の片鱗を感じさせるシーンだ。なんかこれとよく似た場面他の映画でも見たような気が……。

戦争の仕掛け人が戦争を仕掛けようとし、人の心の中にも潜む狂気を利用する者のよって戦争は促進される。戦争になりそうになった時、一人一人の自制心と勇気が試されるなと思った。平和とか戦争とかそう簡単なことがらじゃないなとは思うけど、やはり平和が一番だと僕は思う。

登場人物がかなり入り乱れ、印象の薄い人もいて細部にわたり話を一度で把握するのは難しいかもしれません。時間軸として、ヒトラーが最期の12日間とそれからドイツが降伏を受け入れるまでの数日間が描かれています。とにかく一見の価値ありです。この快作をぜひご覧になっていただきたいと思います。

*1 一般にはエヴァ・ブラウンと言われるのでそう表記した。ドイツ語ではエーファ・ブラウンの音に近い。
*2 アドルフ・ヒトラー - Wikipediaの愛人の段落より引用。

お気に入り度:★★★★★★★★☆☆(8/10)

『ヒトラー ~最期の12日間~』公式サイト
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原題:Der Untergang
監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
原作:ヨアヒム・フェスト、トラウドゥル・ユンゲ
脚本:ベルント・アイヒンガー
音楽:ステファン・ツァハリアス
出演:ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ラーラ、ユリアーネ・ケーラー、トーマス・クレッチマン、コリンナ・ハルフォーフ
製作年度:2004年
製作国:ドイツ/イタリア
上映時間:155分


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2005年08月01日

映画『コースト・ガード』

「韓流シネマ・フェスティバル2005」なるものがサロンシネマで行なわれている。その中の上映作品に『コースト・ガード』という作品があった。

『コースト・ガード』はキム・ギドク監督の作品。僕は『サマリア』が初キム・ギドク作品鑑賞だったけれど、妙な余韻の残る不思議な作品だった。自分の脳の使われていない感情領域が刺激されるような感じがした。

その後、『悪い女 青い門』という映画もDVDで観た。この映画の主役はちっとも悪い女ではなかった。もっともこれは邦題が良くないんだけど。(原題では悪い女を意味する語は入っていないそうな。)この映画も妙で不思議な余韻が残る作品だった。特にラストは「あれれれ?」な展開を見せる。他にもいろいろな作品をこの監督は撮っているんだけど、彼は常にセンセーショナルな作品を世に送り出すことで有名な監督の一人だ。そういうわけで『コースト・ガード』を観ることにした。

『コースト・ガード』には韓流四天王の一人チャン・ドンゴンが主演で登場している。チャン・ドンゴンはキム・ギドク監督の才能に惚れ込み破格の安いギャラで出演したとか。チャン・ドンゴンは湾岸警備隊のカン上等兵を演じている。

湾岸警備の兵隊の任務は北朝鮮スパイの侵入を監視すること。兵役中のカン上等兵はスパイを捕まえる気満々で日々任務に着いていた。

カン上等兵が湾岸警備中、怪しい人影を発見し北朝鮮のスパイと思い銃撃した。しかしその男は村の民間人ヨンギルだったという痛ましい事件が起こる。恋人のミア(パク・チア)に誘われヨンギル(チェ・ヒヨン)は一緒に夜間進入禁止区域に入り、そこで情事を繰り広げていたところその事件は起きてしまった。

カン上等兵がスパイだと思った人物を凄まじい勢いでこれでもかと言わんばかりに殺してしまうシーンの凄惨さは目も当てられない。ヨンギルは背中に何発も銃弾を浴びせられ手榴弾でバラバラにされるのだ。身の毛がよだつ恐ろしいシーンだった。

情事の最中、目の前で恋人を殺されたミア、そして意図せず民間人を殺めてしまったカン上等兵。取り返しの付かない事件が二人の精神状態を狂わせる。

殺された男の恋人ミアと加害者のカン上等兵の変貌ぶりがこの映画の核だ。おおよそ人の理解を超えた変貌振りを彼ら二人は見せる。カン上等兵は隊員に暴力を振るったり、物を盗んだりする。また、ミアは魚をおもちゃにして遊んだり、髪の毛を包丁で叩き切ったり、湾岸警備隊の隊員と体の関係を持ったりする。

カン上等兵はどうして除隊されたのに湾岸警備隊に戻ろうとしたのだろう。殺人を犯す前の日々に戻りたかったのだろうか。そして部隊に戻ることを許されないカン上等兵は次第に狂気のエネルギーを逆恨み的に湾岸警備隊員に向けるようになる。

ミアはどうして湾岸警備隊員の何人かと肉体関係を持つのだろう。彼らを恋人と思い込んでの行動だろうか。それほどまで精神状態が変わってしまったことがとても痛ましい。そしてミアはさらに自分自身を痛めつけることになってしまう。

この映画にはおそらく何も救いはなく、『サマリア』や『悪い女 青い門』のラストで感じることができるほのかなやさしさは微塵もない。被害者だけでなく意図せず加害者になった人の壮絶なドラマが描かれている。そしてやはりラストは意表を付く展開が待っている。

それにしてもキム・ギドク監督は水をつかった場面が好きなようで。服着たままシャワーを浴びる場面がこの映画でも見られた。おお、この場面『サマリア』でも見たなと思ったよ。あと、あの鉄条網のリングのボクシング。見ているだけで痛いです。

お気に入り度:★★★★★★★☆☆☆(7/10)

監督:キム・ギドク
脚本:キム・ギドク
音楽:チャン・ヨンギュ
出演:チャン・ドンゴン、キム・ジョンハク、パク・チア、ユ・ヘジン、キム・テウ
製作年度:2001年
製作国:韓国
上映時間:94分


By NOV at 01:40 | Comments [0] | Trackbacks [1]