2005年07月10日

映画『サマリア』

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『サマリア』は、援助交際をする女子高生を主題にした物語。この物語は三部構成になっている。

第一章は「バスミルダ」。バスミルダとはインドの伝説の娼婦の名。バスミルダと寝た男は仏教を信仰するようになったという。
ふたりの女子高生、チェヨン(ソ・ミンジョン)とヨジン(クァク・チミン)は親友同士。チェヨンは天真爛漫な笑顔で、自分をインドの伝説の娼婦バスミルダと呼ぶ。父ヨンギ(イ・オル)と二人暮しのヨジンは、ためらいなく援助交際をするチェヨンの見張り役や稼いだ金銭の管理をする。いつかふたりでヨーロッパ旅行にいくことを夢見て貯金をする。
ところがある日、悲劇は訪れる。いつものようにヨジンは、チェヨンが客の相手をしているホテルの監視をしていたが、目を離した隙に警察はチェヨンの部屋に捜査突入。警察の手を逃れたいチェヨンは、ホテルの窓から身を乗り出し飛び降りる。

第二章は「サマリア」。この章は、聖書に登場する「サマリアの女」を題材にしているという。
チェヨンは飛び降りた後この世を去ってしまった。ヨジンはチェヨンに対して罪の意識を背負っていた。そして贖罪の為にヨジンは、チェヨンが援助交際した相手を呼び出し、その男たちとセックスしてお金を返していく。
男を汚らわしいと思っていたころが嘘のように、次から次へと男を相手にし、お金を返していくヨジン。しかし、刑事として勤務中のヨジンの父は、娘がホテルで男と一緒にいるところを目撃してしまう。

第三章は「ソナタ」。これは韓国でもっとも大衆的な乗用車「ソナタ」にちなんでいるとか。
娘の不道徳な場面を見た父は娘の行為を妨害する。父は妨害を繰り返すうちに社会常識を逸脱した行為をエスカレートさせていくこととなった。そして、ヨジンは父と一緒に車で旅に出発する。

『サマリア』を製作したキム・ギドク監督は、『魚と寝る女』や『悪い男』といったセンセーショナルな作品を世に送り出しているという人である。今作でも援助交際という不道徳なテーマで話題を喚起した。
ヨーロッパ旅行を夢見る親しいふたりの女子高生、本能的でどうしようもない男たち、社会の枠からはみ出してしまう父親の姿を通して見えてくるものは何か? 世の中に潜む悲痛な叫びが私たちの胸を鋭くえぐる衝撃の作品。本作はペルリン国際峡画祭で、銀熊賞(監督賞)を受賞したキム・ギドク監督の作品。一見の価値ありです。

この先、ネタバレをしている可能性があります。ご注意を。

第一章ではふたりの親友模様が描かれています。「ソンユド公園」でふたりが駆り遊んでいる場面、今しかないふたりの儚い時の流れを感じさせる詩的情緒が漂っています。

援助交際をためらい無く満面の笑顔でやるチェヨン。彼女の行う行為は一般には不純な行為というけれども、彼女のその行為は不思議なことに不純のかけらは微塵もなく、むしろ純粋で清らかな行為にさえ思えてしまう。そのギャップは私を当惑させます。援助交際は善なのか、それとも悪なのか、私はとても混乱してしまいました。

チェヨンの親友ヨジンは、チェヨンとは異なり援助交際で知らない男と寝ることは汚らわしいことと考えていました。ヨジンは、チェヨンが他の男と寝ることを嫉んでいるかのようにも見えます。チェヨンとヨジンのふたりの世界はやがてチェヨンの死で失われるのです。

第二章「サマリア」では、ヨジンはチェヨンに対する罪の意識を背負うことになります。ヨジンにとって、チェヨンに命を絶たせてしまった罪を悔い改める行為は、チェヨンが相手した男と連絡しセックスをしてお金を返すことでした。このことに対してもまた私はとても驚きました。どうしてそれが贖罪行為になるのかちょっとひねりが利きすぎていてすぐには理解できなかったような気がします。

ヨジンが贖罪行為を繰り返していきます。ヨジンはチェヨンが行ったことと同じ行為を男たちに与えていきます。違うのはお金を男に返すところだけです。
この行為を通じてヨジンはチェヨンに近づきながら、やがて同化していく様子がわかります。かつては男を汚らわしく思っていたヨジンですが、少しずつチェヨンのように男と寝ることを楽しんでいるようでもありました。そして、私は、ヨジンの精神が解放され救われていく様子に安堵感を覚えました。このころには、ヨジンのこの行為をなんだか理解できるようになってきました。

第三章では、娘の不純な行為を見つけた父親が、どうしようもない怒りの感情にまかせ、娘と関わった男たちを妨害したり傷害を加えたり、時には殺めてしまいます。娘の不純な行為を目撃した父親ですが、彼は一切娘には注意できません。世の中の道徳のラインが非常に曖昧なところを如実に表わしているのかもしれません。なぜなら、援助交際が絶対的な悪であるなら父親は娘を厳しく注意できると思うからです。

男たちに狂気なエネルギーで制裁を加えた父親はやがて決心をして娘ヨジンと旅に出ます。
旅で立ち寄ったヨジンの母の墓参りのあと、自動車は坂道の途中石に進路を妨害され、父親は運転を諦めて休憩します。一方、チェヨンは車の邪魔をしている石を取り除きます。この場面には、それぞれの人生に対する心理状態が反映されているように感じました。もう進めないなあという諦めの心理と、何かがあっても前へ進むという前向きな気持ちです。

旅の途中、ヨジンは父親の前で泣き叫ぶ場面があります。娘に対して父親は何も言いません。ヨジンは、ヨジン自身が行った贖罪行為を父親が気付いたことを確信したのでしょう。チェヨンに対する贖罪はできても父親に対しては罪の意識をきっと感じたのだろうと思います。救いを求めて行った行為が一方では絶望的な行為になってしまうのです。非常に心苦しい場面でした。

ラストは、まさか、ヨジンが父親に殺されて本当に終わるのかと思ったら、それはヨジンが車の中で見た夢でした。その夢からも、父親に対する罪の意識の自覚が伺えます。
不快な夢から覚めたヨジンは、父親から強引に自動車の運転を教えられます。そして、父親は警察に連絡しそれまでの犯罪を告げるのです。
しばらくしてヨジンと父親のいる川原へ警察がきます。父親は警察に連行されます。「これからは一人で生きるんだ」とヨジンに言い残して。
ヨジンは覚えたばかりの自動車運転技術で父親を連行する車を追いかけます。まだ危なっかしい車は父を追い駆けます、ぬかるみにはまっても必死でヨジンは父親を追い駆けようとしますが、父親の乗せられた車にはもう追いつけません。こうして父親と娘の旅は終点を迎えるのです。この最後の父を追い駆ける場面が、この先のヨジンの人生をいろいろと暗示していることはいうまでもありません。

『サマリア』を観て、当惑させられ、心の一部を剥がされ、そこの空間に何かを注入されてしまいそう感覚を覚えました。このような作品を製作できるキム・ギドク監督は稀有な才能の持ち主であることは間違いないと思いました。信じられないほどの狂気の父親を演じたイ・オルの演技も迫真でした。体当たりの演技で女子高生を演じた、クァク・チミン、ハン・ヨルム(サマリア撮影後、ソ・ミンジョンより改名したそうです。)の今後も期待ですね。(2005年6月25日サロンシネマで鑑賞)

お気に入り度:★★★★★★★★★☆(9/10)

原題:사마리아
監督:キム・ギドク
脚本:キム・ギドク
音楽:パク・ジウン
出演:クァク・チミン、ソ・ミンジョン、イ・オル、クォン・ヒョンミン、オ・ヨン
製作年度:2004年
製作国:韓国
上映時間:95分

映画『サマリア』の関連商品の紹介

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クァク・チミン キム・ギドク ハン・ヨルム イ・オル
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サマリアの少女 単行本
映画『サマリア』のノベライズ本あります。
サマリアの少女

By NOV at 2005年07月10日 12:58
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コメント

こんにちは。トラックバックありがとうございました。
この映画、僕もかなり当惑しました。確かにすごく力がある作品でしたね。同じキム・ギドク監督の「受取人不明」というのがまた凄いらしく、なんとか見たいと思っています。

Posted by yas0233 at 2005年07月11日 23:44

こんにちは。コメントありがとうございます。

ようやく、サマリアを観て記事にできました。
キリスト教にまつわることがらを映画とオーバーラップさせて鑑賞することのできる人が多いヨーロッパで評価が高いというのもわかる気がします。

ちょっと、受取人不明について調べてみましたが、日本での公開は今のところ予定がないですね。ちょっと前に東京で1週間ばかりあったようですが。その作品も面白そうです。なんとか見たいものです。

Posted by NOV at 2005年07月12日 08:34

こんにちは^ω^
トラバどうもありがとうございます。
キム・ギドク監督の作品は難しいけど、すごく才能を感じますね。
一般的にはうけそうもありませんが、僕は好きですね。
実は、僕もサロンシネマで鑑賞しました^ω^

Posted by OH!ちゃん at 2005年07月14日 08:45

こんにちは。
僕も、サロンシネマで観ました。
サマリアはとても印象に残っています。
どうしてあんな作品が作れるのかなと
感心してしまいますね。
最近気付いたのですが、広島で
キム・ギドク監督の「受取人不明」
や他にも数作上映されます。
観に行こうと思っています。
コメントありがとうございました。

Posted by NOV at 2005年07月15日 14:01
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