2006年04月07日

映画『白バラの祈り―ゾフィー・ショル、最期の日々』

『白バラの祈り―ゾフィー・ショル、最期の日々』をサロンシネマにて鑑賞。

この映画、第二次世界大戦真っ只中のドイツで実際に起きたできごとを主題にしている。”白バラ”という組織に属するゾフィー・ショル。彼女は大学で反戦ビラをばら撒き警察に捕まる。そして、逮捕後異例の五日間という早さで裁判が行われ処刑されてしまう。

この映画を観て、全然人間のできていない私は、もう少し賢明さが欲しいと思った。その活動の背景の描き方が浅いからそう思えたのかもしれない。また、死刑から逃れようと思えば逃れられたものをゾフィーは死刑へと自分自身で運命を決めてしまう。覚悟はできているつもりだったゾフィーの決してそうではなかった姿がとても見ていて堪えられなかった。

それにしても裁判官はすごかった。高圧的で断定的な血も涙も無い様子が怖かった。ゾフィーらの弁護人は形式的にしか存在しているに過ぎないもので、まさに死刑は既定の形式的見せしめ的な裁判だった。

ゾフィーの勇気や道徳観に感服しつつも、もう少ししたたかで賢明な生き方をして欲しかったなとも思うのだ。でも、そうであったらこの映画はこの世に無かったのだ。ゾフィーさんの「太陽は輝き続けるわ」の言葉を胸に今よりも強く生きていこうと思う。

★★★★★★☆☆☆☆(6/10)

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2005年08月06日

映画『ヒトラー ~最期の12日間~』

広島の原爆投下から60周年の今日、『ヒトラー ~最期の12日間~』を見た。広島では今日が上映初日で、100席ほどのサロンシネマは観客で一杯。この映画に対する関心の高さに比べて、上映映画館が少なすぎるのではないだろうか。

この映画の監督は『es』のオリヴァー・ヒルシューゲル。『es』では人々の心理面を怖いくらいに描いていた。監督は妻から『ヒトラー ~最期の12日間~』の監督をすることは反対だと言われていたようだ。ドイツ人にとってこのテーマを扱うことの困難さがうかがえるエピソードだ。

ちょっと特筆すべきことは、ベルリンの市街地場面の撮影はロシアのサンクトペテルブルクで行なわれたことである。1941年ドイツ軍の封鎖により100万人とも言われる死者を出した街。当時はレニングラードと呼ばれていたその街で撮影が行なわれた理由は、皮肉にも当時のドイツ人が多く関わった建築物が多い街並みだったからだそうだ。エキストラには多数のロシア人が参加している。

映画はヒトラーの女性秘書トラウドゥル・ユンゲ(アレクサンドラ・マリア・ララ)の視線から、ヒトラーが最期を迎える12日間がメインに描かれる。実はこのようにヒトラーに直接スポットを当てた作品は初めてという。しかも戦争当事国のドイツ自らこのような作品に挑んだ。

ブルーノ・ガンツが演じるヒトラーには驚かされた。ヒトラーの本物を見たことなんてないし本物の写真とは頬のあたりが特に違うけれど、なぜかこれはそっくりだと思ってしまう。威圧的な抑揚ある喋り方、独特なジェスチャーなどあまりにもイメージ通りで、目の前に本物のヒトラーがいると思わせられたことは不思議な体験である。

この映画を見て僕自身の世界史の知識の薄さを思い知らされたことも収穫の一つだ。ヒトラーの側近について何も知らなかった。映画では何人かのヒトラーの側近たちの行動や心理も描いている。最後まで徹底抗戦を唱える者や戦後を見越して降伏を画策する者が登場する。終戦間近の混乱が垣間見ることができる。

ドイツの敗戦は世界の終わりと信じていた人たちの行動は痛ましいものだった。特にゲッペルス夫人(コリンナ・ハルフォーフ)のそれは言葉にならないくらい衝撃的。夫人は6人の子どもたちを睡眠薬で眠らせたあと毒殺する。子どもの人権なんて当時の世界にはない。その後ゲッペルス夫妻は拳銃で死を遂げる。

ヒトラーの愛人エヴァ・ブラウン*1(ユリアーネ・ケーラー)についても描かれている。エヴァの妹の夫がヒトラーの命令により殺されたけれども、その後エヴァはヒトラーと結婚している。18年間の愛人生活に終わりを告げようやく結婚したエヴァの満足そうな表情が印象的だった。史実では「可哀そうなアドルフ、彼は世界中に裏切られたけれど私だけはそばにいてあげたい」と語ったという。*2

地下要塞内部の様子だけでなくベルリン市街での市民の様子も描かれている。年端のいかない少年や少女達が徹底抗戦の構えをみせる。戦争の反対を唱えるものは戦争賛成者から制裁を受ける。日本の戦争中も大なり小なりこれと似たような状況だったのだと思わせられる。

この映画で描かれているヒトラーはホロコーストでユダヤ人の大量虐殺を実行した恐ろしい人物ではなく、最後の余力で無謀な作戦を立て追い詰められていく悲哀に満ちた男という感じだ。次々に発覚する部下の裏切り。組織は崩壊寸前。最後は自分の遺体の処理の仕方まで部下に伝える。

最後の場面でユンゲは戦争で生き残った少年と自転車に一緒に乗る。ちょっととって付けたようなシーンだったけれど、ちょっと疲れた心の僕には一時の安らぎでもあった。希望の片鱗を感じさせるシーンだ。なんかこれとよく似た場面他の映画でも見たような気が……。

戦争の仕掛け人が戦争を仕掛けようとし、人の心の中にも潜む狂気を利用する者のよって戦争は促進される。戦争になりそうになった時、一人一人の自制心と勇気が試されるなと思った。平和とか戦争とかそう簡単なことがらじゃないなとは思うけど、やはり平和が一番だと僕は思う。

登場人物がかなり入り乱れ、印象の薄い人もいて細部にわたり話を一度で把握するのは難しいかもしれません。時間軸として、ヒトラーが最期の12日間とそれからドイツが降伏を受け入れるまでの数日間が描かれています。とにかく一見の価値ありです。この快作をぜひご覧になっていただきたいと思います。

*1 一般にはエヴァ・ブラウンと言われるのでそう表記した。ドイツ語ではエーファ・ブラウンの音に近い。
*2 アドルフ・ヒトラー - Wikipediaの愛人の段落より引用。

お気に入り度:★★★★★★★★☆☆(8/10)

『ヒトラー ~最期の12日間~』公式サイト
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原題:Der Untergang
監督:オリヴァー・ヒルシュビーゲル
原作:ヨアヒム・フェスト、トラウドゥル・ユンゲ
脚本:ベルント・アイヒンガー
音楽:ステファン・ツァハリアス
出演:ブルーノ・ガンツ、アレクサンドラ・マリア・ラーラ、ユリアーネ・ケーラー、トーマス・クレッチマン、コリンナ・ハルフォーフ
製作年度:2004年
製作国:ドイツ/イタリア
上映時間:155分


By NOV at 23:41 | Comments [3] | Trackbacks [14]